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三重よりみち記2024

さて。三重に行ってきました。何年振りだろう。定かじゃないけど10年くらい前にお伊勢参りして以来かもしれません。いろいろよりみちできたのでまとめます。 津に宿泊したのですが、朝食を探して見つけた「かくしか食堂」さん。和の定食を3種類用意されていて、朝も、おそらくお昼もそれを提供されています。朝は7:30からオープン。これがとんでもなく絶品で、この日のメインの秋鮭のふっくら焼き加減が絶妙で口に入れた瞬間、じゅわっと口福広がりまくり。おひたしなどの副菜も、お味噌汁も白米も完璧でした。リピート確定というかこれを食べるために津に来たいレベル。 前夜はクラフトビールを求めてキャンプバー・ランタンさんへ。とっても小さなお店でキャンプごはん風のメニューをご提供。ビールはタップマルシェでご当地の伊勢角ビールをと思ったら売りきれてた無念。まあいい。三重大に通っているというフレンチ女性と、彼女を訪ねてきた父親(エールフランスの整備士らしい)、そして地元客おじさんと店長が、アニメの話で盛り上がってました(情報は全部漏れ聞こえてきた)。そんな楽しいお店。 伊勢で本屋さんを検索して見つけたのが「本屋・散策舎」さん。外宮のすぐそばの小さなセレクト本屋さんで、新刊メインに扱っていました。絵本から宗教哲学までいい感じのラインナップでとても素敵。パッと目に入った「エスノグラフィ入門」を購入。近いうちに読んでレビュー書きます。 最大の衝撃は伊賀市の新堂という無人駅かな?の前に2023年11月出現した「BOOKMARK STORAGE」。SHINDO YARDという複合施設のメインで、カフェギャラリー+図書館です。地元の焼杉で作られた外観がクールで、ひなびた小さな駅とのコントラストがすごい。名和晃平などの現代アートも展示され(24年12月には椿昇の作品も設置予定)、居心地が素晴らしい。訪問したのが夜になってしまったのですが、高校生が数人座って本を読んだりいろいろ。 近隣に工作機メーカーを持つ会社さんが地域貢献施策として作ったそうで、2025年には隣にワイナリーもオープンさせるそう。周囲には特になにもない郊外にこれはほんと驚きました。アクセスがよいとは言えないので、旅行者がふらっと訪ねるのも簡単ではないですが、こういうのが好きな方にはぜひ一度見ていただきたいと思いました。 そういえば上野市の旧市庁舎もホテル

感想_イット・エンズ・ウィズ・アス

さて。コリーン・フーヴァー『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる』(2023年刊)読了。全米1位を取ったロマンス小説です。 ちょっと前にananで「ロマンス小説がアメリカの若い世代に人気上昇中」という記事があり、そこに載ってたのがこの本でした。記事曰く、古くからあったジャンルが、設定に現代性が出て注目されていると。昔は身分違いの恋に始まり、今は女性も社会に出てればさまざまな障害やテーマが反映されていると。 元記事こちら(ananweb) てことで本作。田舎からボストンにやってきたリリーは父親を亡くしたばかり。しかしその父は母に暴力を振るっていた。そんなときに出会ったのは脳神経外科医のライル。2人は急速に惹かれ合い運命的に結ばれるが、たった15秒の出来事が2人を引き裂いて…。 ライトなタッチの一人称文体で、ラノベといって差し支えないテイスト。アメリカだとYA(ヤングアダルト)と呼ばれる部類だと思いますが、ちょっとエッチなシーンもあってそれはNA(ニューアダルト)と呼ばれたりもするっぽい? あくまで主眼は男女の関係です。テーマの真ん中には女性への暴力があり、このあたりが今どきたる由縁。 恋愛小説には一定のときめきがやっぱりあるなと思い、わかってても2人がくっついたり離れたりにちょっとドキドキ。訪れる危機は、運命のイタズラとしか言えないのではと思ったりもしたけど、それは男性視点であり、暴力を容認してしまう素地かもしれません。ライル、リリー、それぞれが抱えるトラウマをどう乗り越えるのかという興味に引っ張られます。最後の決断はちょっと意外な感じもしたけど、これでなくてはいけなかったのかも。負の連鎖との決別。 メロドラマちっくな展開やちょっと極端な設定感など、ある意味では『汝、星の如く』にも通じるなぁと思ったのでした。 格式高い文芸ではなく、かといってすごく胸を打たれたとか、そういうのはなかったのですが、親しみやすく、等身大の共感性があるのだと思います。そして映画版がこの夏全米公開されて空前の大ヒットを記録したそう(ブレイク・ライブリー主演)。日本でも11月に公開決定です。 そもそもの原作は2021年にTikTokでバズったそうで、著者の作品が軒並みランキング入りするようなブームになったそう。本作の続編も出ていたり、新刊も書店に並んでました。新世代ロマンス小説を読む

神速スペクタクル!

さて。ラグビーのパシフィックネーションズカップ準決勝、日本vsサモアを秩父宮で観てきました。環太平洋6カ国の戦い。 試合開始から日本が速い攻めを繰り出し、早々にトライを決めて主導権を握ると、これでもかとギミックの利いた速いパスから多重攻撃を繰り返す。これがエディ・ジョーンズHCの掲げる超速ラグビーか!! 確かに速い!  観てる方としてはこれはかなりテンション上がる攻め方だし、規律を守ることに長ける日本人にも合っていそう。スピード&スタミナ。アクセントにキックを。これを正確に80分やられたら守る側もたまらないのでは!? ただし、まだそこまでの完成度はなくてパスミスをインターセプトされて大ピンチ・失点というシーンも多かったので諸刃の剣とも言えそうなギャンブル戦術。超速全フリは怖さも感じるけどリスクを取ってブレずに極めてほしい。新しいスタンダードになるかも!? しかしこれ、クラブチームが時間をかけて練り上げるにはいいけど代表で浸透させるの相当むずそう。阿吽の呼吸が求められそうな中、どこまでメンバー固定し時間をかけて落とし込めるか、選手は呼ばれてすぐこのラグビーを表現できるのだろうか? という懸念を吹き飛ばすくらいに魅力的でこの日は結局6トライ奪っての快勝だから言うことなし! 秋晴れの空よろしくめちゃくちゃ気持ちのいいゲームでした。面白過ぎ! 観にきてホントよかった!! ファイナルも楽しみ!!! 超速ラグビーを超えて神速ジャパンと呼ばれる日を楽しみに代表を追いかけたいと思うのでした。兵は神速を貴ぶ、か。モタモタしてたら置いてくぜ! 今大会のメインビジュアルが参加国の海の神様がモチーフとのことで無茶苦茶かっこいいやんけ。 よりみちしながら、いきましょう。ラグビー観戦マジおもろ。今日も、いい1日を。

福井よりみち記2024_いろいろ

さて。福井で宿泊したのはスキージャム勝山というスキー場のホテル。小さいけど温水プールあり、ゲレンデは夏のアクティビティあり、BBQもできたり、ファミリーに嬉しいサービスがたくさんありました。恐竜博物館へのシャトルバスも出てるので駐車場待ちなどがないのありがたいです。 前回も思ったけど福井はあれもこれも恐竜推しで、タクシーにも、飛び出し坊やにも、他いろんなサインに登場します。福井駅前はオブジェに壁画にレゴブロックにステンドグラスと、媒体もさまざま。 越前鉄道は長閑なローカル線で、田園風景の中を走るのは情緒があって良かったです。カイリューとのコラボ列車も走ってたしね。単線の2両編成、ほぼ無人駅で、行きは運転士さんが、帰りの電車は女性アテンダントさんが切符売ってましたよ。 今回は恐竜博物館一直線て感じでよりみちがほぼできなかったのですが、そうするとやっぱり発見も減るんだなーというのが、今回の発見。散歩も街歩きもお店巡りもないので、若干の寂しさもありつつ、まだ次の旅の糧としたいと思います。 唯一寄れたのは福井駅前の新しい商業施設で、OUR BREWINGというブルーパブでビール飲めたくらい。めちゃ美味しかったです。 タクシーの運転手さんに延伸効果を聞いたところ最初だけだな〜とのこと。関西まで繋がって関西からのお客さんが増えたら真価を発揮するんですかね。まあ、またきたいと思います! よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

福井よりみち記2024_恐竜博物館へ

さて。福井に行ってきました。延伸した北陸新幹線に乗って。福井駅は東口も西口も恐竜三昧で楽しかったです。 お目当ては恐竜博物館。福井駅からさらに越前鉄道に乗って勝山駅へ。そこからスキージャム勝山のホテルまでバス移動。道路は恐竜博物館渋滞が凄かったぜ。 一泊した翌日に事前予約してた日時指定チケットで入館。5年振り2回目でしたが、去年のリニューアルもありより洗練された印象。化石とフィギュアを一緒に展示することでその姿をイメージしやすいのいいですね。しかし、リニューアル目玉の新館にちゃんと足を運ばなかったことが後からわかり激しく後悔。恐竜タワー観たすぎた…。調べなさ過ぎた。。 レストランもショップも大混雑でしたが、システムはしっかり整っててその辺のもやもやストレスは少なかったです。待ち時間はとんでもなかったけどね。 隣のディノパークもさらに充実したのかな? 前より恐竜の声が増えた気がしたけど気のせいかもしれません。巨大昆虫も堪能したよ。ほか、遊具でも遊びたかったんだけど、予約時は酷暑のことをまったく考えてなかったわ。夏休みの外遊びはプランから外しといたほうがいいね。 ということで今回も恐竜王国を大満喫なのでした。よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

鑑賞_生まれておいで 生きておいで

さて。東京国立博物館で開催中の内藤礼の企画展「生まれておいで 生きておいで」鑑賞してきました。とんでもなく良かったなこれは。 展示は大きくふた部屋+1。まずは平成館の展示室ですが、入った瞬間この人やっぱ天才だなと。薄暗い室内に、小さくてカラフルな毛糸玉がテグスで吊り下げられています。頭の高さの少し上くらいにランダムに並ぶそれはそれらは小惑星のようであり、生命体のようでもある。とてもささやかでシンプルなのに、おごそかで美しい。 何気なく置かれる木や石、展示ケース内に敷き詰められた白フェルトも作品だよね。 わずかにゆれる小さな風船、ガラス玉? 鏡に材質不明の板も、あ、鈴もあった。鑑賞者が行き交う姿すら取り込んで景色にしてしまう神業です。そーっと息を吹きかけると小さくさざめくのもまたよき。もしかしたらケースの向こうが死者のゾーンなのかもしれない。 それは普段からそこにあるのに見過ごしているような、まだなにかの形にもなる前の(胎児のような)、あるいは形としての役目を終えた後の、精霊のような魂のようなものに思えてきます。見えるものと見えないものの間にある、もしくはずっとそこにあるのに見過ごされてきた、なにか。お盆に見るに相応しいな。今日は終戦記念日だ。 次の展示室に移動すれば天才の偉業その2。空間との調和が半端じゃない。小さきものに目を凝らし、歩き、しゃがみ、想いを致す。木片の上の毛糸の切れ端、ケースの隅の微細な紙片、木彫の下に佇む陰影、ガラス玉の連なりを透かす光、そっと立てかけられた小枝、キャンバスの絵の具は描いたというより映し取るように。観てると思考と言葉が自然と湧き出てくるのが心地いい。物と物の距離、偶然のような必然のようなバランス、全てを包むような白いフェルト。あるものと、ないもの。 自然光を取り込んだ空間なので、あ今陰ったな、とわかる。真っ白だったキャンバスは時間と共に彩られていく。しかしそれもやがて無に帰すということ。始まりと終わりとその輪廻という永遠。光と影、生と死、黄泉のつがいよ。歩み寄らないと見えない銀のテープ。この展示室は以前は仮囲いがされ絨毯も敷かれていたそうですが、作家の意向ですべて剥がされオリジナルの空間が蘇ったそう。 この博物館には太古のアイテムが多数ある中で、内藤礼の現代美術作品がそっと溶け込む。それによって 生と死や光と陰のように対になるもの、

香川よりみち記2024_四国水族館へ

さて。直島から高松に戻りホテルユヅキさんに宿泊。市街地の端っこエリアですかね、古ビルリノベの一室で1LDK的な間取り。とても綺麗でこちらも家族4人で泊まるに十分、長期滞在にも向いてそう。で、近所の「やまもと寿し」さんがとても感じよく、そして朝もまた近所のパン屋「春風堂」さんで。地元の人が普段使いするお店にお邪魔するのは旅行の楽しさの一つですね。 この日は高松から車で1時間ほどの四国美術館館へ。宇多津というエリアで次回の瀬戸内国際芸術祭にも加わるそうですよ。要注目。 香川にありながら四国の名を冠するこちら、展示テーマは大きく3つあり、瀬戸内海、太平洋、そして四万十川を始めとする清流。うん、四国を名乗るに相応しい内容。館内はコンパクトながらそれぞれに生息する個体が展示されてて子供にも見やすい作り。屋外にもゾーンがあって瀬戸内海を借景に楽しめました。イルカのプレイングタイムも派手さはないけど良かったね。しかも飼育してるのは珍しいマダライルカ! たっぷり満喫したら近所のうどん屋さんでランチして、香川旅フィニッシュ。レンタカー屋さんに聞くところ香川もインバウンドのお客さんがかなり多いらしく、海外からの直行便を積極的に誘致してるそう。レンタカーもインバウンドの方多いそうで、高松市街地の夜ごはんは外国語が入り乱れてるそうです。 アート瀬戸内もそうだし、イサム・ノグチや名建築もあるし、四国全体に目を広げればさらに観光資源たくさんあるものね。1週間とか周遊したら楽しいだろうな。いつかはお遍路もやりたいものです。 最後にフライトまで少し時間があったので、「菓子と珈琲 暖(はる)」というお店に伺いました。ご夫婦でやられてるお店で、シュークリームとコーヒーをいただきましたが、とても素敵でしたので、高松空港利用の際にはぜひ寄り道していただきたいです。 ということで直島を中心にのんびりだけど充実の香川旅。とても良い夏の思い出になったのでした。よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。 飛行機ら富士山も見えましたー。

香川よりみち記2024_続・直島へ

さて。直島の朝ごはんはアカイトコーヒーさんへ。直島出身オーナーが始めた自家焙煎珈琲のお店で、カフェにてモーニングをいただきましたがとっても美味しかったです。古書や雑貨もあってお店の雰囲気もとてもよく。毎回朝ごはんはここに来たいですね。 午前中は島のビーチで海水浴。草間さんの黄色い南瓜作品のすぐ横なので、海からこの南瓜を愛でられます。午前はまだ空いていたものの南瓜撮影をするお客さんはひっきりなし。ビーチのほうは高松や岡山から来ている半地元の人たちが中心だったと思います。THE島の夏って感じで気持ちいい! ビーチわきのレストランで昼食を済ましたら、道すがら見つけたカフェでかき氷を。これがまたとんでもなく美味しくて、イチゴ味は凍らせたイチゴそのものを削り出すスタイル。みかんも贅沢に果実をまるっと使っていて、これ目当てにきてもいいレベルかよ。1〜2年前だかにオープンしたばかりだそうですぜ。 午後は地中美術館でアート鑑賞。子供らがモネの睡蓮やジェームズ・タレル作品を堪能していていい感じでした。 てことで駆け足でしたが直島でやるべきことをきっちりやり尽くして夕方のフェリー(最終)で高松へ。ほんとは連泊したかったのだけれども〜。 また数年後に来たいです。やることはおそらく大して変わらないだろうけど、それがいいってもんdすよね。 よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

香川よりみち記2024_直島へ

さて。香川県は瀬戸内海の島、直島に行ってきました。アートで世界的にも知られる島で、インバウンド旅行者多数でした。 高松空港でレンタカーしてそのままフェリーに乗船。満員で乗れないとかあるのかな…と怯えてましたが、午後の便てこともあってかクルマはすっかすか、乗客もさほど多くはなく、のどかそのものでした。 男木島、女木島を横目に、のんびり過ごすこと約1時間で直島に到着。出迎えてくれるのは草間彌生のアート作品の赤い巨大南瓜。中にも入れる作りなので子供達も大喜びだし、観光客はこぞって写真撮りまくり。これだけでも来たかいあります。自身も含めてみんなのテンションが上がってるのを見て、あらためて、フォトジェニックであることの強さを感じるのでした。 同じ港のすぐ横には直島パヴィリオンというアート作品も。立体蜘蛛の巣ジムといった造形で、こちらも中に入ることができる体験型。やっぱり子供たちは大喜びで、バックの海の夕暮れもいい感じ。いやー楽しいな。 本日のお宿は、クイント直島という古民家リノベ物件を部屋貸ししているところ。港からすぐ近く、事前チェックインのみで入れて2ベッド+布団2組ルーム&ダイニングという家族4人にありがたい間取りで、快適滞在でした。 晩ご飯はお店探しにやや苦戦しましたが、ものすごい大盛りメニューのお店に入れてお腹もふくれたところで、お風呂はアートな銭湯、「I 🖤 湯」へ。エキセントリックな内観にこれまた子供達歓声。ただし内湯の温度が熱すぎるとのことで湯船には浸かれなかったけれどね。 滞在数時間にして大満喫の直島の夜は更けていくのでした。よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

感想_ルックバック

さて。映画『ルックバック』劇場鑑賞(2024年公開)。チェンソーマンの藤本タツキによる青春マンガのアニメ化。マンガを描くことが大好きな藤野は、引きこもりで同じくマンガ好きの同級生京本と出会う。導かれるように二人で作品をつくり上げついに雑誌連載が決まるが二人は別の道を進むことになり…。 周囲の評判がとても良く、58分という尺もありスキマ時間にサクッと鑑賞。THE青春ジュブナイルという感じでほろ苦なあと味。ネタバレを避けるのがなかなか難しいですが、強烈な感動やわかりやすいメッセージよりも、各シーンの意味を考えてるといろんな点がつながって全体像が浮かび上がる系の良作でした。作画もアニメーションも凄く情感あって良かったな。エンディングの音楽も。 自己愛の強い藤野は自身を責めるが、パラレルワールドがその背中をそっとさすってくれる。あっちの世界線でも京本の運命はおそらく変わらないし、藤野と漫画の距離も多分変わらないことを示唆する。人は出会うべくして出会い、別れるべくして別れるってことなのかもしれない。 背景しか描けなかった京本が、物語を立ち上げ藤野を救うくだりがハイライトで、それは藤野との出会いが背中を押してるし、きっと漫画の力でもあるんだろうな。主役ではないとされる、背景もれっきとしたクリエイティブであり、それを作る人々へのリスペクト。藤野のアシスタント探しでも直接的に言及してましたね。人は一人では生きていけないという普遍へのメッセージもあるのかな。 京都アニメーションの事件をこんな風に直接的に描いたのは驚きで、作者なりの追悼や怒りの意味があったのでしょうか。これを使うのはまだ早過ぎるようにも感じましたがニュースで見るのとは違うインパクトがあったので、風化させない意味でもよかったのかな。そして創作に昇華することで理不尽に負けない決意も示してくれたとも思いました。 4コマ漫画というモチーフも良かったですね。とてもシンプルなフォーマットだけどその最小の物語でさえ人を動かすチカラになりうること。藤野キョウの物語はこれからもまだ続いていく。その原点は学級新聞の片隅の四つの四角にあるし、もしかしたらファーストキスというあの作品にも通じるのかも。 創作は誰かを救うこともあるし、時に誰かを傷つけてしまうこともある。無力感に苛まれることも多いけど、たった1人の感動が得がたい幸福感も与えてくれ

感想_汝、星のごとく

さて。凪良ゆう『汝、星のごとく』(2022年刊)読了。小さな瀬戸内の島での出会いは17歳。父が家を出た暁海と、恋多き母に連れられてきた櫂。誰にも言えない孤独と不満を抱えた2人は惹かれ合い結ばれる。時間と距離のすれ違い、母の呪縛、大切な人との別れ。運命に翻弄され、過去という亡霊に取り憑かれた2人がその行く末に見つけたものとは。2023年本屋大賞受賞作。 初めての凪良さん作品、周りの絶賛評に誘われましたが、自分にはそこまでフィットせずでした。展開がドラマチックすぎると思ったし、思わせぶりなセリフが多いけど一つ一つのシーンが深まらない。結果、2人をもうひとつ好きになれませんでした。 選択が常に極限すぎるからかな。理不尽もらい事故に不条理袋小路などなど本人に非のないハードモードの目白押しで同情はするけど自分ごとにはなりにくい。好みでしかないけど、価値観の小さなささくれや、日常の他愛のない湿気にこそ、普遍が露わになるのではと思っている自分がいるので、そこが相容れなかった。 もしも櫂にあの事件がなかったら。暁海の母が昔のままだったら。それでも2人の物語が重なり合っていた、ようには思えなかったのです。境遇以外の2人のつながりが脆弱だったし、櫂の文才も暁海の刺繍センスも、裏付けに欠けていた。あるいはエクストリーム波瀾万丈シーソーゲームをサバイブできたのはこの二人だからこそとも言えるのかもしれないけどね。その絶対性に共感も知性も要らないのかな。 このラストならもはや暁海と北原先生の互助は不要に思えるし、結局のところ櫂の私小説なのだとしたら何を突っ込んでも野暮にしかならないぜ(櫂’s脳内美化フィクションで片づいちゃう)。凪良さんも施設育ちとwikiにあったからこれが事実と言われたら受け入れるしかないものね。15年にわたる恋物語を下敷きに、創作や自立、ヤングケアラーにジェンダーと、色んなエッセンスが入りすぎて本筋がボヤけた感じもしました。ラブストーリーだよねこれ? 結ばれぬ恋としての重みは足りなくて、なんとなくセカチューを思い出しました。男女両A面という意味では冷静と情熱の間か。って例えが昭和臭なので、つまりは歳食ったおじさんのタワゴトですね。令和に求められたある種の通過儀礼であり、時代を超える作品ではない(と思う)けど、その時代を確かに彩った物語として位置付けられそうな気がするのでした

水面を覗き込んだら宇宙が見えた

さて。鍵岡リグレアンヌの個展「Undersurface」を鑑賞してきました。6/22〜8/3まで天王洲アイルのMAKI ART GALLERYさんにて。 去年か一昨年の企画展で一目惚れした鍵岡さん、待望の個展です。今回は彼女の代表的なシリーズ「Reflection」をメインにした展示。このシリーズは水面をモチーフに独特の技法で唯一無二の絵画作品に仕上げたもの。その色彩の美しさと、彫刻的な立体感、そして見る人を引き込むリズムが素晴らしいのです。 ちょうど作家さんが在廊していていろいろお話も聞かせていただけました(!)。さまざまな水面を求めて各地に足を運んでいること、ビビっとくる瞬間をひたすら待ち、撮影した写真をもとに水彩画の習作をまず起こすこと(今回はその展示も。見比べるとまた楽しい)。そしてそこから作品に落とし込むこと。 風や波によるゆらぎに同じものは一つとなく、その時々の光や周囲の環境を写し込んだ水面はまさしく一期一会であり、そこで切り取られた瞬間がこういうふうに作品化されるプロセスにまず感動。さらに作品を前にすると、宇宙から見た地球や大陸のようにも見え、無限の広がりが感じられるというのもすごい。ひとつの水面から立ち上がる永遠。刹那と悠久をつなぐアート。大げさではなくそう思うのでした。 うん、作品のリズムがそう感じさせるんだよね。水がひとつところにとどまらないように。命の循環や自然の摂理をも思い起こさせて、ずっと見ていられる。豊島美術館の作品『母型』にも通じる輪廻を感じますね。物質の動きを伴わないあくまで絵画なのにそれを成し得ているという神業作品。背景をうかがえたことでいっそう深く魅せられたのでした。いや本当にいい時間だった。 よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。