12/19日曜日おはようございます。5年ぶりに免許更新してきました。また5年後会いましょう。
さて。昨日感想を書いた『スモールワールズ』ですが、まだ僕の中でうまく消化しきれていないので、もう少し掘り下げるべく6つの作品個々に感じたことを並べてみます。そしたら何か見えてくるかな?
『ネオンテトラ』
望んだ子供を得ることが叶わず、夫の浮気にも気づいてしまった美和。偶然、中学生の男の子が折檻を受けるのを目撃してしまい、実は姪の同級生だった彼と言葉を交わすようになる。
不穏の一言でした。誰にも共感できないまま話は進んで、衝撃というより嫌悪が芽生える結末に。美和の思考や行為は、なんと名前をつければいいのだろう。本人の苦悩は想像できなくもないし、何か一線を超えたわけではないけれど、相容れない冷たさを感じた一作。パラパラと読み直して気付きましたが、最後にちらっと出てきたトラック運転手は、次の作品の魔王ですね。他にもそういう繋がりあったかな?(最後の作品でネオンテトラ出てきますね)
『魔王の帰還』
図体も態度も声もでかい魔王こと、姉の真央が実家に帰ってきた。鉄二の日常はかき乱され、しかし真央が現れたことでクラスで浮いているもの同志の住谷さんと距離が縮まる。鉄二と住谷さんは、幸せな結婚をしたはずの姉が、どうして戻ってきたのかを探ると予想もしない事実が待ち受けていた。
こちらは登場人物全員愛すべきキャラクターで、3人それぞれに苦悩を抱えながらも「気持ちで負けない」ことを選択していきます。世の中にはいろんなことがって、時々結末も決まってしまっているように感じるけれど、それって「気持ちが負け」ているから。でもそれを否定するわけではなくて、ただただそういうこともあると、フラットに受け止めてくれることに救われる気がします。タイトルが実はWミーニングだったと気付かされる最後の一行が秀逸です。
『ピクニック』
不自由なく暮らしてきた瑛里子だったが、思うようにならない子育てに苦戦する。母・希和子の献身的なサポートもあり、未希が10か月を迎えようやく平穏が生まれ始めたその時、事件は起きた。瑛里子の留守中、希和子が未希を見ていたが、目を離したすきに息を引き取ってしまう。その時、一体何が起きていたのか。希和子に疑いがかかるが、真相は闇の中だった。
全くコントロールできない育児の辛さにわかりみしかありませんでした。瑛里子と同じとは言いませんが、とにかく2年くらい夜泣きに苦しんだもので。にもかかわらずそれを失う恐怖に身がすくみました。あまりにも辛い現実ですが、なんとかそれを乗り越える展開に胸をなでおろしたのもつかの間。ところでこれは誰の視点なんだろう?ってうっすら疑問に思っていたのが、まさかそんな着地をするなんて。あまりにも救いがなくて僕は絶句しました。でも、「子どもの成長というのはたまたま無事でいてくれた日々の積み重ね」の言葉は真理だなぁと思いました。ところで、ここで出てくる弁護士さん親子、次のお話の伊佐さんかもです。どこにもそれを示すエピソードはないけれど、そう思わせちゃうのがすごい。
『花うた』
弁護士にあてられた一通の手紙。物語はその手紙の10年前に遡る。同じ差出人から出された手紙は、傷害致死による受刑者だった。たった一人の肉親である兄を殺された妹と、その加害者による往復書簡。手紙の中で二人の奇妙な交流は、ある日突然変容してしまう。
最初からある種の答えが与えられた状態で進むむ答え合わせのような物語。こういう共依存というものがあるんだろうかと思いながら読み進めました。ネタバレをすると、二人は手紙の中で少しずつ距離を縮め、しかし事件によって決定的に引き裂かれながらも、夫婦という関係になります。相手の大切なものを奪ったはずなのに、それが喪失を埋めるピースになるなんて。現実ではありえないように思えますが、でも、そういう奇跡はあるんじゃないかと信じたくなる美しいお話でした。
『愛を適量』
中学校教師を務める慎悟は、仕事にやる気もなく、一人寂しい生活を送っていた。そこに突然現れた男は、もう15年も会っていなかった実の娘の佳澄だった。なぜ今? どうして男の姿で? 成り行きのままに同居が始まり、それぞれの事情がわかるほどに二人は関係を取り戻していくが、佳澄はまた姿を消してしまう。
最も好きだった作品。いつからか全てがうまくいかなくなってしまった慎悟と、女に生まれながら心は男だった佳澄、それぞれの空白を埋め合っていくお話です。どちらも不完全で、だけどそれは間違っているわけじゃなくて、ただただ何かのボタンを掛け違えただけ。でも、誰かを傷つけてしまうことがある悲しさ。望んだ未来がやってこない苦しさ。「ちょうどいい」ようになんてうまくできなくて、その不器用さを何とか認め合う親子に希望を見出すことができるのでした。ところで、慎悟の勤めている学校(と断定はできないけど)が、次のお話でも登場します。
『式日』
1年ぶりに後輩から電話がかかってきた。何でも父親が死んで、自分に葬式に出て欲しいのだそう。他に誰も出てくれる人がいないから。そこで、二人は色々な話をする。父親とのこと、父がどんな風に死んだのか、二人に何があったのか。
なかなかつかみどころがなかったです。先輩は最初女だと思っていたけど、途中からあれ男なのかもな?って思いました。さっと読み返す限り性別を確定させる要素はなかったように思うので(後輩は俺って言ってるから恐らく男性)。まあどちらだとしてもお話に大きな影響はないのだろうけれど、二人のなんとも言えない距離感が痛みを伴っている話。二人はお互いを必要としているけど、望んでいるものが微妙にずれている。だから幸せにはなれない。何かが少し違ったらよかったのかもしれない。出会い方なのか、性別なのか、それとも何が違っていても同じなのか。僕たちはいつも似たようなところをウロウロしている。未来は変えられるような気がするし、過去は変えられないような気がするし、どっちが本当なんだろう。
ざっとまとめてみて、「思うようにならない現実」の前で、四苦八苦する人たちの話だったなと思いました。それはごく私的な世界です(だからスモールワールズ)。登場人物と私たち読み手は、きっと立場も事情も違うし、極端な話も多いので共感はしにくい。だけど、なかなかうまくいかない今を生きているのは、たいていの人にとってだいたい一緒だろうから、だとしたらこの6作のどこかで琴線に触れる瞬間があるのではないかと思いました。注意深く見てみると、作品内のささいな繋がりだったり、とても緻密に計算されていて、すごい作家さんだなと思いました。写真の通り、書店でもかなりプッシュされていましたね。
長くなってすみません、こうして書くことで、自分の中でちょっと理解が深まった気がします。
よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。
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