さて。よりみちライブラリ第56回。一穂ミチ『スモールワールズ』(2021年刊)読了。子供ができないモデル、事件を起こした球児、幼子を亡くした母娘、被害者と加害者の往復書間など、それぞれの小さな世界で起きる6つの物語。外からは中の様子が見えない、当事者だけにしかわからない出来事と、その心の色。小さな世界の中で、人々はこんなにもすれ違い、時にどうしようもなく息苦しくて。
直木賞候補にもなっていた一冊。広島の書店で推されているのを見て上司に借りました。とても巧みなお話で、するするとページが進む。6つの作品どれも、長編にできるだろうくらいに濃度があって、でもそれをコンパクトにまとめているからこそ強烈な余韻が残ります。
正直に言えば最初の2本は巧妙であるがゆえに、ちょっと悔しいというか、できすぎているようにも感じましたが、3本目の「ピクニック」は子育て中の不幸な事故が描かれており、小さな子を持つ親として他人事ではなくなって一気に引き込まれました。結局のところ、僕は共感性だけでこの本を評価してしまっていたのかな、と反省。その後は貪るように最後まで読みました。
この小さな世界の出来事は、どれもなかなかにヘビーです。設定は極端なものが多く、エッジにいる人たちのギリギリの心を紐解いていきます。兄を殺された妹が、その犯人と交わした手紙とは。15年も会っていなかった娘が男の姿になってやってきた理由とは。それは共感とは遠いところにあって、ほの暗さに苦しくもなります。
でも、例えそこに描かれる人々が自分と近しい境遇ではなかったしても、簡単に理解はできなかったとしても、確かにそれは存在するということは忘れてはいけないのだと気づかされました。多様性やマイノリティという大きな言葉では表せない、生身の人間一人一人の中に様々な世界がある。理屈では割り切れない、言葉にも表せない、よく間違えるし意味もわからないし筋の通らない感情を抱えているのは、みんな同じのだから。
そしてそれは物語という形だからこそ伝えることができ、寄り添うことができる。他者の内情というブラックホールに光を当てることができる。
うまくまとまりませんが、できればたくさんの人の感想を聞いてみたいと思わせる一冊でした。エピソードごとに、人それぞれの見方や感想がありそうです。僕ももう少し語りたいので、明日はこの本の中の6つのお話それぞれの感想をまとめたいと思います。
よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。
コメント
コメントを投稿