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7月, 2025の投稿を表示しています

感想_スピード・バイブス・パンチライン

2回続けてラップの話いきます。つやちゃん『スピード・バイブス・パンチライン ラップと漫才、勝つためのしゃべり論』(2024年刊)読了。今、”勝てる”しゃべりとはなにか、それがラップと漫才だ!という仮説に基づいて近年の両カルチャーをヒップホップ系の文筆家が分析します! 時代の要請として、私たちのしゃべりは高度化してきていると感じています。テレビのお笑いに始まり、ネットスラングが爆増し、SNSが拍車をかけ、アテンションエコノミーにさらされて…。で、その状況の中でしゃべりを最高に先鋭化させてるのがラップと漫才だろうというお話。確かにすぎるし興味ありすぎるじゃん! 0.1秒で掴み、解らせ、笑わせ、唸らせる必要があるんだよねマジでさ! 漫才がどんどん高速化していて、確かにM1とかの何分間かにいくつネタを詰め込むかみたいな世界に始まり、それを逆手に取った間の作り方も研究され、ラップの世界にも高速化はあり韻の踏み倒しもあり、それを前提としたズラしのテクニックもまた漫才、ラップともに見られる現象であると。 で、それらのテクニカルなものはすべて伝えるべき最大の笑いorメッセージを届けるためであり、すなわち最強のパンチラインをいかにして作り上げるかというところに回収される。そのための高速化、ずらし、パワーワード構築であると。うわほんとそれね。日常においてもそれはもう同じで、会話の中でいかに勝つか、いいねをもらうか、記憶に残すか、のハードルは上がり続けていると思います。 いや別に勝ち負けやってるわけじゃないんだけど、気持ちを伝えるものが言葉なわけで、その伝え方が時代によって変化していることは確かなんですよね。そりゃいちばん大事なのはハートの部分だってことは古今東西変わらないんですけれども。 てことで本書はそんなふうにシーンの変遷を具体的な漫才や楽曲を例として解説してくれてるので、読み物としても面白いし漫才好きやラップ好きは、あれねわかるわかる、となりそうな一冊で楽しく読めました。近年の変化をわかりやすく言語化して落としてくれますしね。突き詰めるとスピード・バイブス・パンチラインにたどり着くということ。 この駄文もいかに読んでもらえるかを考えながらスピード・バイブス・パンチライン・ハート&ソウルを突き詰めてがんばってこうと思います。てことで2回連続のラップ関連書レビューでした。今日も、いい...

感想_言語学的ラップの世界

思ってたのとは違ったけれど。川原繁人『言語学的ラップの世界』(2023年刊)読了。言語学者である著者が、日本語ラップを言語学的視点で分析した一冊。多数のラッパーへの取材や、リリックの分析を通して、日本語ラップを語り尽くす! ラップにはうとい自分ですが、言語学的視点てどんなだろー?と興味を持った一冊。母音や子音で、日本語での韻の踏まれ方をあれこれ解説してくださっていましたが、一読しただけではあんまりピンとはこなくてすみません。 具体例はいろいろ出ていて、「蹴っ飛ばせ」と「Get Money」とか、「It’s not over」と「静まろうが」とかとか。確かにこれは上手い!って感じですが、母音と子音の話は自分的にはそこまで興味がなかったという話。日本語でライムがしづらいんだ、ということはなんとなくわかった。ダジャレ好きとしてもそこは確かに苦労するしな。 そう、自分としては素敵な韻を踏むヒントになればいいなと思ったし、先達がどんなふうに韻を踏んでいるかが知れればと思ったけれど、そういう感じではなかったかな。すでにある事例を言語学で分析して、こういう法則がありましたよ、という話だったと理解しました。違っていたらすみません。 あとあれですね、韻の話に終始していたので、韻じゃない部分への言及がほしかったんだけどな〜という感じです。詳しくなさすぎてあれですが、creepy nutsの歌詞に衝撃を受けたので、韻もさることながら韻踏んでても踏んでなくてもすげーラップを分析して欲しかった。 てことで本書のタイトルは正確には、言語学的韻踏みの世界、だと思ったのでした。うん、帯には「韻でつながる日本語ラップと言語学」って書いてあったわ。 今日も、いい1日を!

感想_オーラの発表会

成瀬より、海松子(みるこ)派で。綿矢りさ『オーラの発表会』(2021年刊行)読了。大学進学を機に一人暮らしを始めた片井海松子(みるこ)。嗅覚に優れ、最小限の衣服を着回し、趣味は多摩川での凧揚げ。ひそかに「まね師」と呼んでいる同じ高校だった萌音からは他人と体よく交われないその生き方をいろいろ突っ込まれるけれどそんなのはどこ吹く風。小学校の頃から海松子に思いを寄せる同級生に、大学教授である父の教え子イケメンも巻き込みながら、海松子の風変わりな毎日は過ぎていく。 あっぱれお見事な一冊でした。本屋大賞を取ったのは成瀬ですが、その前に海松子がいたよ! 常人とは違うスタンスで日々を送っているという意味では共通点のある2人。成瀬はファンタジーだったと思いますが、海松子は、いやこっちもファンタジーか。でもなんか絶妙なリアリティを伴っているのは綿矢節という感じ。斜め上というか、斜め後ろからチクチク刺してきます、本作も。 序盤は海松子の異質さと硬さが前に出過ぎてた気がしましたが、中盤からこなれてきて思わず声を出して笑っちゃうところ多数。萌音との不思議な距離感と、周囲に対する低温度な定義。それでいて諏訪とのキスに動物的に反応するところは艶かしく、一方で森田くんとの20年後に向けてようやく一歩進んでいくのは微笑ましい。 海松子ほど極端ではなくとも、周りの人とうまく協調できないというのは、あるあるな気がします。今はSNSで知らなくていい側面が勝手に飛び込んでくるからいっそう難しそう。海松子はそういうブレがないので頼もしいし、できれば自分もそうありたいと思ってしまう。 一方で、ブレないがゆえに海松子に近づきたい人は悪戦苦闘せざるを得ないのがおかしみであり、海松子自身の悩みでもあり、どんな個性も表裏一体てことか。実は海松子と最もうまくやれそうなのはコスパの鬼の増本くんで(あだ名、つけたのかな)、萌音とはまた違った海松子の理解者というか相棒になれそうな気がします。萌音はその観察眼ゆえに海松子のことを誰よりも見てくれていた人。 出てくる人物みんな、表面では見えない一癖がありつつも、その欠落はポジでもありネガでもあり、ひっくるめて個性なんだなと。オーラとはすなわちその個性の総称で、生きてきた時間とか、いろいろな選択によって練り上げられていくのでしょう。 どんな形であれやっぱり人は1人では生きていけなく...