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感想_おかえり横道世之介

あんまり暑いので扇風機を出しましたよ、2台同時に。

さて。吉田修一『おかえり横道世之介』(2019年刊)読了。あの横道世之介が帰ってきた! 就職活動はさっぱりうまくいかず、バイトとパチンコで食い繋ぐ24歳になった世之介。そのパチンコ屋で出会った新たな友達、大学時代の親友とひょんなことから出会ったヤンママ家族、やっぱり世之介は頼りなくて、ボンクラで、だけどどうしようもなく憎めなくて。

なんだか大学時代よりダメになった気のする24歳の横道世之介。流れるままにフラフラと過ごし、ヤンママと親しくなってその実家の世話になるってどんな流れだよ!って感じですが、世之介だとなんかそれでオッケー。

大学時代ほどのキラキラした感じはなくて、もう少し世知辛さや社会のやや日陰っぽいところが舞台になっています。バブル崩壊後の元気がない世相も取り込んでいるのかな。それでも世之介は世之介のままで、そういう劣等感や差別的なものに一切加担しません。いつも通り、今まで通りに、打算なくフラットな世之介のままでいてくれるからどうやっても応援したくなる。

前作同様に、1年間を追っていて、合間に登場人物が世之介を振り返るモノローグが挟まれます。なんと東京オリンピック開催の2020年も物語に織り込まれそこからの視点になっていて(まさか延期になるとは知る由もなく)、よりドラマチックな仕立てでした。ただ、キーパーソンぽい感じだった浜ちゃんのエピソードがあんまり掘られなかったところはおや?って思いましたが。

ラストに思いっきり書かれている世之介の善良さについて。ああそうか、善良なんだな、世之介のいいところってと腑に落ちました。フリーターだし、まるで頼りないけれど、シングルマザーにも親友にも訳アリそうなパチンコ仲間にもお隣の異国人にもフラットに接することができる世之介。人を疑わず、貶めず、あるがまま受け入れられること。

多様性とかボーダレスとかそれっぽい言葉が飛び交うけれど、先入観なく人と向き合えることがどれほど貴重なことか。自分にはほんとなかなかできないことだから(頭ではわかっているつもりでも)、やっぱり世之介が眩しいよね。頼りないと言われながらも、やる時はやるところもカッコいいんだぜ。

文庫版のおまけで、映画を撮った沖田監督と高良くんの対談があって、やっぱりまた映画が見たくなってしまうというね。むしろこの続編も撮ってほしかったよね。そして吉田先生の中には子供時代の世之介編の構想もあるんだそうで。こうなったら『永遠と横道世之介』もまだ見ぬエピソードゼロもとことんついていきますから!

よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。




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