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感想_アンソーシャル ディスタンス

芥川賞直木賞候補出ましたね。どれも気になります。

さて。金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』(2021年刊)読了。彼が鬱になりボロボロになる女、年下恋人のために美容整形にのめり込む女、セックスレスの夫と友人の弟の狭間で悩む女、希死念慮を持ち恋人と旅行する女、かけがえのない相手とコロナで距離ができてしまった女、の5つの短編集。

最初の3本はコロナ前に発表されてて、残り2本がコロナ中で作中にコロナも出てきます。4本目が表題作の「Unsocial Distance」。非社会的距離。なるほどどの主人公も社会常識とされるようなものからはずいぶん外れている。仕事中に酒を飲み不倫に溺れ、整形も自殺も、きっと眉を顰められ後ろ指を指されそうなものだ。読んで気分のいいものではない。

でも、どれも確かにそこにあるわけで、どの作品も金原さんらしい生々しい女性たちの闇が詰まってますが、タイミングとタイトルにも引っ張られて「心の距離」の物語のようにも感じました。

夫や恋人や不倫相手と自分。それぞれとの距離感があって、それは大きな事件や何気ない一言で、近づいたり離れたりを繰り返す。適切な距離とはなんだろう、そんなものは維持できるものなのかと考えてしまいます。

客観的に見れば、そんな関係やめたほうがいいとか、それは間違ってるよとか言えるかもしれないけど、当事者というか本人にしかわからないんだよねそういうのって。そして心は移り変わるし相手もいるから一定の距離を保つことは不可能なのかもしれない。近ければいいわけでもないし、自分を曝け出せば近づくというものでもないから難しい。

なにより自意識と自分自身の距離さえもままならないのだと、彼女たちを見ていて思うのでした。コロナも自分も簡単にはコントロールできないからややこしい、僕たちを取り巻く適切な距離とはどこにあるんだ問題。

ところでこの物語、反対側からの男性視点で見たら彼女たちはどう映るのだろう。あるいは友達視点でも面白いかも。社会との距離、他人との距離、自分との距離。お構いなしのコロナはすごい。

よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

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