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感想_おいしいごはんが食べられますように

ちょっと海外行きの航空券見てみたらサーチャージ半端ないって…!

さて。高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(2022年刊)読了。小さなデザイン制作会社に勤める二谷は、食べるものにも、食べることにも、その周辺にも執着しない。そんな二谷に仕事を引き継ぐ芦川は、「体にいいものを食べること」を是として、手作りのお菓子を職場で配る。後輩の押尾は、そんな芦川を疎ましく思うのだった。

今回の芥川賞受賞作品、ほんわか装丁と中身のギャップで話題を呼んでいる一作です。ほんわかごはん、出てきません(丁寧おやつは出てきます)。いや、ちゃんとごはんも出てはくるんですけどね、それがひとつの攻撃対象として物語を回す役割という意外性。価値観のギャップの象徴。

人間関係の奇妙さを描いた作品だと思いました。二谷は芦川をどこかで馬鹿にし、嫌悪さえしながらも同時に放って置けないとも思っている。押尾は芦川を嫌い、二谷を好み、2人の関係に勘付きながら傍観する。職場の人間関係はそんな三角関係も飲み込んで回っていく。合理的じゃないし、筋も通らないけど、それこそが人間と人間の距離感なんでしょう。

頭が痛くて早退してしまい、仕事で決して無理をしない(そして周りはさせない)芦川を、みんなもやもやしながら受け入れるのが、とても今っぽくて、どちらの立場にしてもこういうのは思い当たるところあるんじゃないですかね。

僕も、子供の熱などを理由に早退したり、在宅したりすると、後ろめたさを感じざるをえません。一方で、いやいや、親だからこれが当たり前だしこういうのが普通になる方向に世の中変わっていかなきゃいけないんだと正当化したり。答えは出ないよね。

それぞれ自分のルールが第一にあって、みんながそれを尊重できることが多様性のように言われています。でも、個のルール同士が相いれないことはしょっちゅうあるし、それとは別に共同体のルールだってあるはずで、そのあたりどう折り合いをつけていくのかの共通解が見えない今日この頃。誰も教えてくれないよ。

なんとなく僕は自転と公転を思い浮かべて、好き勝手自転した結果、公転の軌道を外れてしまったら、その惑星系は成立しないよね多分。

今は、人間関係や社会との距離感といった惑星系が、大きく揺らいでいる時代なのかもしれないなと思う一冊でした。まさしく今を切り取るテーマであり、それこそが芥川賞の要因なんだと思います。と、妙に話を大きくしちゃいましたが、基本的には職場人間関係系三角関係のお話。くれぐれも、ほっこりごはんは期待するべからず。

よりみちしながら、いきましょう。このテーマは最近思うところのあるでまた明日にでも続きを書きましょうかね。今日も、いい1日を。


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