スキップしてメイン コンテンツに移動

感想_騎士団長殺し(上下巻)その1

突然発熱して1日伏せってました。何だったんだろう。


さて。村上春樹『騎士団長殺し』読了。うまくやっていると思っていた夫婦生活は、妻からの一方的な申し出により終わりを告げた。私は家を出て当てもない旅をし、そして友人の雨田政彦の紹介で、彼の父である雨田具彦の暮らした小田原の家に転がり込むことになった。一人になるために。傷を癒すために。しかしその家には知られざる傑作絵画『騎士団長殺し』が眠り、そして謎めいた白髪の紳士より肖像画の依頼が舞い込む。開き始めた環は、私を取り込んでどこへ向かうのか。


相変わらずの村上さんスタイルで、面白く堪能しました。しかしいつもながら長大な物語ゆえ、どこからどう感想を綴っていいかわからないので、本書に習って2回に分けたいと思います(イデアとメタファーに分けられないけど)。まずは物語の筋について。


序盤、またも妻に去られ(女のいない男がまた一人!)、井戸のような穴が現れ、やがて謎めいた人物と少女が主人公を翻弄していくのは、いつもの村上節だな~と、久しぶりの長編でしたが、安心感と既視感の間で。孤独なようでいて女性関係には妙に縁がある主人公もおなじみです。職業は肖像画家。描写から読み取るしかないのですが、そのスタイルは、村上さんの創作スタイルと相通じるのではないかと想像しました。対象の中に深く入り込み、その核となるものを見つけたらそこから物語を立ち上げ、様々なものを肉付けしていくような。あくまで想像に過ぎませんが、そう思わせてくれます。主人公の描いた絵を見てみたかったな。


免色さんというキーマンが名前からして不穏すぎて、果たしてどんな役回りになっていくのかという興味が前半を引っ張っていきます。何かしら邪悪なるものの象徴になっていくのではないかと思っていましたが、最後までそういうことはありませんでした。善なるものとは言えないかもしれないけど、全体として彼は彼の役割を全うしていたように思えました。むしろ、仮想敵のようなものを物語に求めてしまった自分が恥ずかしいような。そういう分かりやすさを知らず知らず求めてしまうのか…。それから、いつ主人公が穴に潜るのかと思ってましたが、ついには潜りませんでした。笑 出口ではあったけれど。


非常にたくさんのキーワードとモチーフが出てきます。免色さんという人物と名前もそうだし、謎の大きな穴もそうだし、騎士団長殺しという絵画もそうだし、それを描いた雨田具彦とその過去もそうだし、秋川まりえもそうだし、主人公とユズの関係もそうだし、白いスバルフォレスターもそうだし。それらのパーツがどんな役割=メタファーなのか。それを探りながら読むのが村上小説の楽しみ方と言えるのでしょう。物語としては、とにかく主人公が奇妙な体験を繰り返していくわけで、およそ普通とは言えなそうな人物たちと、一般的とは呼び難い出来事が次から次へと。なんだけど、主人公の純粋性によってそれらが普遍性を帯びるというカラクリなんですよね。


クライマックス、ここではないどこかをくぐり抜けた主人公はあの穴にたどり着き、そして秋川まりえと再会を果たします。主人公は過去を乗り越えて人生を一歩前に進めました。その結末はこれまでのどの作品よりも綺麗に着地させた(環が閉じた)お話だと感じました。「私」が体験した不思議な出来事は、結局何だったのか明らかにならないままではあるものの、希望のある形で前に進みました。こんな終わり方をした長編ってありましたっけ?


「私」は自分の中の闇(白いスバル・フォレスターの男)を、そんなものが存在していることを知り、すぐには克服できなくとも、多くの人との出会いと犠牲(騎士団長や、秋川まりえや、雨田政彦や、免色さんや、顔なが)によってそれを自覚し、いつの日か乗り越えるべく前進することができた。そういうお話だと理解しました。それって何というか、人生そのものですよね。


筋を追うはずが、結局はメタファーについての話になってしまいますね。続きは後編(感想_騎士団長殺し(上下巻)その2)で。


よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。


コメント

このブログの人気の投稿

相模原camp

さて。キャンプ行ってきました。我が家は道具無しの素人なのでバンガローに宿泊して、ふとんもレンタル。食事類はすべて友人家族におんぶにだっこ。感謝しかありません。 向かったのは相模原のほうの青根キャンプ場というところ。とにかくお天気に恵まれて、夜〜朝こそひんやりしましたが気持ちよくて。バンガローはきれいでエアコンもあったので快適そのもの。 子供達もいろいろ手伝ってくれてお昼はカレーを作り夜はお鍋を作り、翌朝はホットサンド。燻製もあったりどれもこれも美味しくて。自然の中でいただく手作り料理。ベタですが本当に最高ですね。 施設内に大浴場があるのも嬉しいし、川も流れてて釣りや川遊びに興じることも。2日目は近くの宮ヶ瀬湖で遊んで帰りました。とにかく子供たちが楽しそうで、多幸感あふれるキャンプになりました。めでたし。 よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。

感想_天気の子

  『天気の子』(2019年公開)鑑賞。異常気象で雨が降り続ける東京に、神津島から家出してきた16歳の帆高。ある日知り合った陽菜というもうすぐ18歳の子は、祈るだけで晴天をもたらす不思議な力を持っていた。ふたりは、その能力を仕事にしはじめて。 前作『君の名は。』がとても面白かったので期待もありつつ、世の評判はけっこう割れていたようで、とても楽しみでした。そして、すっごく楽しめました。 ハリウッドリメイク意識か!?(してほしい!)というくらいのディザスター感、チェイスアクション、そしてジブリなみのファンタジーで、やりすぎ感すらあったと思いますが、やはり真骨頂はジャパニーズ青春エンタテイメント。美しいアニメーション、花火大会の奥行きとかすごいですね。実写にするならぜひ3Dで観たい。 いろんなポイントがあったと思いますが、いちばん感じたのはイノセンスを問われるなぁということ。「君の名は。」以上に、ふたりの主人公の関係に力点が置かれていて、ファンタジーでありながらも真っ直ぐな感情の動きに、思わず涙ぐみました。この真っ直ぐさを受け入れられるか、言い換えると「きれいなものをどこまで信じていられるか」で評価が割れそうな気がしました。 知らぬ間に陽菜を損ない続けていた帆高の自責の念はどれほどだったか。それを思うと、山手線の線路内を走る非現実的にも見えるあのシーンは「ありえない」ほどの想いをちゃんと表現してくれたシークエンスだと感じました。 雨が降り続いた東京は、どこかコロナと共生する今の自分が重なります。どんな苦難があってもそれでも僕たちはそこで生きていくし、物語は続いていく。もちろん去年の段階でそんなことを考えていたはずはなく、それだけ本質をとらえていたということでもあると思います。 天気や生死、運命など、世界にはどうにもならないことがたくさんあるけど、その中でそれぞれに役割を探しながら生きている。大事なのは、ちっぽけな僕たちでも、確かに世界のカタチを変えうる瞬間というのはあるんだということ。須賀のいうとおりそれはただの自惚れ、思い込みかもしれないとしても。 追っ手を振り切って屋上を目指す帆高に、須賀は逃げるなと言った。帆高...

旅を想うだけで楽しい。

軽井沢のハーフマラソンに出てみることにしました。ちょっと楽しみ。 さて。オズマガジントリップの最新号は「春のひとり旅」。気軽に行ける関東近郊を中心にいくつかのエリアが紹介されていて、気候とあわせて旅気分が盛り上がる一冊。 千葉県のいすみ市は、豊かな自然の中で古民家などのお店が集まっていて、穏やかな1日が過ごせる場所。古書の買取と販売を行う上田のバリューブックスさんはいつか行きたいお店。買取を依頼したことがあるだけで訪問のチャンスはまだないけれどいつか必ずですね。 最近仕事でよく静岡には人宿町なるかつての繁華街がリノベーションなどで盛り上がっているとか。それは知らなんだ、次の出張の際には足を伸ばしたい。そして木更津のクルックフィールズには新しい宿泊棟に図書館もできたとなればぜひ再訪しなくては! 真鶴出版にも泊まりたいんだよなぁ!! といった具合で、うわーあそこもここも行きたい!というところの連打です。遠すぎないしニッチすぎないエリアセレクトが嬉しいところ。やっぱり知らないところに行くのはわくわくするし、そこに行くことを想うだけでなんだか元気が出ますね。 やっぱり3年分の我慢というか、縮こまっていた部分がいろいろとあるんだよなぁと、ちょっとずつ思うことが多いですね。旅とか、雑談とか、そういうしばらくぶりの当たり前。 ストレッチするような心持ちで、お出かけを楽しみたいですね。よりみちしながら、いきましょう。今日も、いい1日を。