スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

7月, 2024の投稿を表示しています

感想_ルックバック

さて。映画『ルックバック』劇場鑑賞(2024年公開)。チェンソーマンの藤本タツキによる青春マンガのアニメ化。マンガを描くことが大好きな藤野は、引きこもりで同じくマンガ好きの同級生京本と出会う。導かれるように二人で作品をつくり上げついに雑誌連載が決まるが二人は別の道を進むことになり…。 周囲の評判がとても良く、58分という尺もありスキマ時間にサクッと鑑賞。THE青春ジュブナイルという感じでほろ苦なあと味。ネタバレを避けるのがなかなか難しいですが、強烈な感動やわかりやすいメッセージよりも、各シーンの意味を考えてるといろんな点がつながって全体像が浮かび上がる系の良作でした。作画もアニメーションも凄く情感あって良かったな。エンディングの音楽も。 自己愛の強い藤野は自身を責めるが、パラレルワールドがその背中をそっとさすってくれる。あっちの世界線でも京本の運命はおそらく変わらないし、藤野と漫画の距離も多分変わらないことを示唆する。人は出会うべくして出会い、別れるべくして別れるってことなのかもしれない。 背景しか描けなかった京本が、物語を立ち上げ藤野を救うくだりがハイライトで、それは藤野との出会いが背中を押してるし、きっと漫画の力でもあるんだろうな。主役ではないとされる、背景もれっきとしたクリエイティブであり、それを作る人々へのリスペクト。藤野のアシスタント探しでも直接的に言及してましたね。人は一人では生きていけないという普遍へのメッセージもあるのかな。 京都アニメーションの事件をこんな風に直接的に描いたのは驚きで、作者なりの追悼や怒りの意味があったのでしょうか。これを使うのはまだ早過ぎるようにも感じましたがニュースで見るのとは違うインパクトがあったので、風化させない意味でもよかったのかな。そして創作に昇華することで理不尽に負けない決意も示してくれたとも思いました。 4コマ漫画というモチーフも良かったですね。とてもシンプルなフォーマットだけどその最小の物語でさえ人を動かすチカラになりうること。藤野キョウの物語はこれからもまだ続いていく。その原点は学級新聞の片隅の四つの四角にあるし、もしかしたらファーストキスというあの作品にも通じるのかも。 創作は誰かを救うこともあるし、時に誰かを傷つけてしまうこともある。無力感に苛まれることも多いけど、たった1人の感動が得がたい幸福感も与えてくれ

感想_汝、星のごとく

さて。凪良ゆう『汝、星のごとく』(2022年刊)読了。小さな瀬戸内の島での出会いは17歳。父が家を出た暁海と、恋多き母に連れられてきた櫂。誰にも言えない孤独と不満を抱えた2人は惹かれ合い結ばれる。時間と距離のすれ違い、母の呪縛、大切な人との別れ。運命に翻弄され、過去という亡霊に取り憑かれた2人がその行く末に見つけたものとは。2023年本屋大賞受賞作。 初めての凪良さん作品、周りの絶賛評に誘われましたが、自分にはそこまでフィットせずでした。展開がドラマチックすぎると思ったし、思わせぶりなセリフが多いけど一つ一つのシーンが深まらない。結果、2人をもうひとつ好きになれませんでした。 選択が常に極限すぎるからかな。理不尽もらい事故に不条理袋小路などなど本人に非のないハードモードの目白押しで同情はするけど自分ごとにはなりにくい。好みでしかないけど、価値観の小さなささくれや、日常の他愛のない湿気にこそ、普遍が露わになるのではと思っている自分がいるので、そこが相容れなかった。 もしも櫂にあの事件がなかったら。暁海の母が昔のままだったら。それでも2人の物語が重なり合っていた、ようには思えなかったのです。境遇以外の2人のつながりが脆弱だったし、櫂の文才も暁海の刺繍センスも、裏付けに欠けていた。あるいはエクストリーム波瀾万丈シーソーゲームをサバイブできたのはこの二人だからこそとも言えるのかもしれないけどね。その絶対性に共感も知性も要らないのかな。 このラストならもはや暁海と北原先生の互助は不要に思えるし、結局のところ櫂の私小説なのだとしたら何を突っ込んでも野暮にしかならないぜ(櫂’s脳内美化フィクションで片づいちゃう)。凪良さんも施設育ちとwikiにあったからこれが事実と言われたら受け入れるしかないものね。15年にわたる恋物語を下敷きに、創作や自立、ヤングケアラーにジェンダーと、色んなエッセンスが入りすぎて本筋がボヤけた感じもしました。ラブストーリーだよねこれ? 結ばれぬ恋としての重みは足りなくて、なんとなくセカチューを思い出しました。男女両A面という意味では冷静と情熱の間か。って例えが昭和臭なので、つまりは歳食ったおじさんのタワゴトですね。令和に求められたある種の通過儀礼であり、時代を超える作品ではない(と思う)けど、その時代を確かに彩った物語として位置付けられそうな気がするのでした